究極を越えた選択
新ユニ誕生に隠された開発秘話
2種類のユニフォームから好きなタイプを選べる。
これまでの常識を塗り替える、新しいユニフォームが誕生した。
開発に約4年という長い時間をかけ、改良を重ねて出来上がった
ユニフォームには、たくさんの想いと夢が詰め込まれている。
夢を現実にするために
ワールドカップ初出場を決めたら、本大会で初勝利を。2度目の出場を果たしたら、グループステージ突破を。次は、ベスト8を。
「夢」だと思っていた舞台が現実となり、そこに立つことが当たり前になる。経験は重ねるたびに、チームの目標は上方修正され、周囲の期待もより高まる。日本代表選手は常に、「前回よりも好成績を」というプレッシャーと戦わなければならない。
どうやらユニフォーム開発の分野でも、それは同じらしい。
「今の代表ユニフォーム、好きだけどね。めっちゃ軽いでしょ」
これは、南アフリカ・ワールドカップに向けた新ユニフォーム開発の過程での、中村俊輔の言葉だ。アディダス ジャパンでは、新ユニフォームのテストモデルを選手たちがトレーニングで着用し、縫製の位置など、選手たちの意見を参考にしながら、改良を重ねて完成品に近付けていく。
中村俊が「今の」と言うのは、アジア最終予選でも着用された08年モデルのことだ。中村がこのモデルを絶賛するのは、当然かもしれない。軽量性、速乾性、デザイン・・・・開発したアディダス ジャパンにとっても、技術の粋を集めた「究極形」と言える一着だったから。
旧モデルが「究極」ならば、それを南アフリカでも着用すればいいんじゃない? そうはいかない。周囲からの期待もある。そして何より、開発者たちのプライドがある。選手たちのパフォーマンスを、ほんのちょっとでも向上させる「究極超え」への挑戦が始まった。
さらなる進化を追及
アディダス社が各国代表のユニフォームを製作する場合、まずはドイツにある本社がコンセプトを決定し、それに沿って各国で新モデルが開発される。「南アフリカ大会モデル」の開発プロジェクトは、ドイツ大会終了の瞬間から動き出した。目玉はもちろん、「フォーモション」と「テックフィット」という異なる機能を持つ2つのユニフォームから、選手たちが自分に合ったタイプを選べるということ。より選手個々のニーズに応えようとする、画期的なコンセプトだ。
「僕は姿勢が悪いから、この方が楽」
開発段階で、内田篤人もその効果に驚いていた「テックフィット」は、選手の姿勢を矯正し、パワーを最大化、さらには疲労を軽減して持久力を高める。着ただけで能力が上がるそれは、ユニフォームの未来形だ。タイトなシルエットも、見た目に強烈なインパクトを与える。
一方、アディダス ジャパンの開発者たちが最も頭を悩ませたのが、「フォーモション」をいかに進化させるかだった。これは、08年モデルのリニューアルモデルにあたる。日本以外のアディダス製ユニフォームでは、「テックフィット」も「フォーモーション」も、ウェア前面に同じ生地を採用している。日本もそうしようと思えばできた。でも、それでは08年モデルからの進化がない。
何とかして、日本独自の技術を盛り込みたい。開発者たちの熱意によってたどり着いたのが、08年モデルに採用していた「ファブリックエックス」の技術を、さらに進化させた「ファブリックダブルエックス」の搭載だった。
欧米に比べて圧倒的に湿度の高い日本ならではの機能で、吸水パワーと乾燥スピードが大幅にアップ。さらにLサイズで100グラム以下という軽量性も実現した。
困難は極めた色合わせ
ただし、ここで壁にぶち当たる。2つのタイプからユニフォームを選べること自体がサッカー界では初めてのこと。その上、2つのタイプの生地まで違うとなれば、FIFAからの承認が降りるか分からない。「グローバル」とFIFAを納得させるには、素材の違う「テックフィット」と「フォーモーション」でのデザイン・カラーの統一が不可欠だった。
色合わせの作業は、想像以上に困難を極めた。「テックフィット」と同じ青色を出すために、何度も何度も生地を染め上げる作業が繰り返される。FIFAが定める期限ギリギリ。現場と工場が総動員で徹夜作業を続けた結果、ついに「ジャパンブルー」に染まった「フォーモーション」が完成した。
「究極」をつくり上げても、さらにその上を目指そうとする熱意には、頭が下がるばかりだ。彼らもまた「日本らしいスタイル」で、世界のベスト4を目指して戦う選手たちと共に「革命」を起こそうとしている。
「究極」を超えた一着ができたことで、次のモデルを製作する技術者にとっては、とんでもなく高いハードルが設定されてしまったが…。
(以上、抜粋終わり)
11/9の発表イベントの翌日の発売に合わせたタイムリーな特集。
俊輔や森本の着用写真は10月シリーズ時に極秘撮影されていたのだろう。
アディダス・ジャパン社の技術者をはじめとした全スタッフ、週刊サッカーマガジンのスタッフに
心から敬意を表したい。
【関連記事】
日本代表ユニフォーム(Japan)(10-11年 革命の羽モデル)