2000年6月。当時勤務していた会社の報償旅行でニューヨークに1週間滞在する機会があった。日程も行程も全て自分でコーディネイトできた為、NYのサッカーバーでのユーロ2000観戦と、カナダでの日韓ワールドカップ予選観戦を軸にスケジュールを組んだ。
6月12日。日韓ワールドカップ北中米カリブ海予選でキューバ代表と対戦したカナダ代表。1週間前に敵地ハバナでのアウェイゲームを1-0で取り、ホームに凱旋。第2戦を戦ったのがウィニペグである。ニューヨークからは2000キロ、飛行機で約3時間である。前夜遅くにウィニペグに到着、空港からホテルに直行し、睡眠をとって朝を迎えた。
2000年といえば、日本では2年後に控えた自国開催のワールドカップに向け、サッカー熱は最高潮に達しており、ワールドカップ予選のホームゲームといえば街中がその熱に浮かれているかと思いきや、ホテルの周りでもそんな雰囲気は全く感じられない。新聞の片隅にホームゲームの広告が出ていたので、かろうじてこの街で今日試合があるということが分かるくらいだ。
試合開始は夜の7時。日中は市内のカフェやブックショップを回る。夕方早目にタクシーに乗り、スタジアムへ、と告げて連れて行かれたのが「Investors Group Field」 33,500人収容の堂々たる大きさのスタジアムだ。気分が高揚する。
ところが試合開始2時間前になっても、サポーターは全くおらず閑散としている。かろうじて見つけたスタジアムの警備員に聞くと、今日はここをホームとするチームの練習があるけど入れないぞ、と言う。
何かが違う。。
例の新聞の広告を見せると、警備員は笑って、ここじゃない、もっと外れのサッカー場だぞと教えてくれた。そう、このスタジアムは地元で人気のカナディアンフットボールのプロチーム「ウィニペグ・ブルーボマーズ 」のホームスタジアムだったのだ。
慌てて再びタクシーに飛び乗り、今度は新聞広告を指さして「Please hurry up to this stadium!」とわめく。のんきな運転手に連れていかれた小さなスタジアムは「Winnipeg Soccer Complex」
あとで知ったのだが、ワールドカップ予選のホームゲームにも関わらず集まった観客は9,000人。しかしスタジアムのキャパシティは2,000人なので、スタンドに入れないサポーターであふれかえっていた。試合はホームのカナダ代表がスコアレスドローでしのぎ、2戦合計1-0で2次ラウンドに進んだ。
当時カナダ代表の監督を務めていたのはホルガー・オジェック。この年の2月に行われたCONCACAFゴールドカップでは優勝を果たしている。95-96年に浦和レッズを率いており、筆者が「Mr. Osieck! I come from Japan!」と声をかけたら、笑ってサムアップをしてくれた。カナダの小さな地方都市で、いきなり日本から来たサポーターに声をかけられてびっくりしたのだろう。再び浦和を率い、AFCチャンピオンズリーグで優勝を果たすのは7年後の20007年になる。
現地新聞の切り抜き。中央ベンチにオジェック監督が見える。
あれから15年。日本代表は6大会連続ワールドカップ出場を目指し、2次予選初戦のホームスタジアムには6万人を集め、女子日本代表はワールドカップ連覇を賭けて戦っている。本日行われるエクアドル戦の舞台はウィニペグ「Investors Group Field」 そうあの日、閑散としていた巨大スタジアムである。